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2 海鳴臨海公園は、日当たりと風通し双方に恵まれた場所にあるため、休日は市民の憩いの場所として人気がある。 梅雨も明けた七月末、夏休み最初の休日という事もあって、ジョギングに精出すスポーツマンや散歩中の家族連れ、 カップルなどで公園は賑わっていた。 人通りで賑わう海沿いの遊歩道を、大学生の女性二人組みが、周囲の注目を集めながら歩いている。 一人は、白いトップスに黒のロールアップパンツとウェッジサンダルが、一流トップモデルみたいに似合っている 白人女性。 もう一人は、紺の半袖ブラウスにリボンベルトの付いた白のタックスカートと、ネイビーカラーのウェッジソールが、 清楚な雰囲気を漂わせている日本人女性だから、注目を集めるのも無理はない。 「今日は何時にも増して人が多いね、アリサちゃん」 「学校も休みに入ったし、今日は休日だからじゃないの? すずか」 月村すずかとアリサ・バニングスの二人は、周囲の熱い視線を平然と受け流し、歩きながら他愛ない雑談をしていた。 「ところで、なのはちゃんは?」 すずかが尋ねると、アリサは周囲を見回しながら言う。 「えーと、この辺りで待ち合わせなんだけど…」 「あっ」 アリサ同様、辺りを見回していたすずかが、突然表情を崩して口を押さえた。 「すずか?」 アリサが怪訝な表情ですずかに声に掛けると、すずかは笑いを堪えながら指を差す。 「君、今待ち合わせ中? もし時間があるなら、向こうの通りの喫茶店でお茶でもどうかな?」 「えっと…あの…その…」 アリサやすずかと同年代で、左寄りのポニーテールに紫のカットソー、デニムジーンズと藍染柿染め のスニーカーという服装の、二人によりは地味ながら平均以上に綺麗な女性が立っていた。 彼女は、派手な色彩のジャケットとジーンズの服装が、如何にも軽い雰囲気な男にナンパされて困った 表情を浮かべている。 「いや、予定があって待ってるのは分かるんだけど、時間まで少しの間でもいいんじゃないかなって――」 ナンパ男がそこまで言いかけた時、誰かがいきなり背中を強く小突いた。 「――ってぇ、誰だ!?」 乱暴な口調で振り向いた男の険しい表情も、アリサの牙を剥き出しにした狼の如き凶悪な笑みに消し 飛んでしまった。 「あ…アリサ・バニングス!?」 「私の大切な友達にナンパとは、いい度胸してるわねぇ…」 「――――っ」 アリサは男の足を思いっ切り踏みつけて、男の返答を遮る。 「ふふ…相変わらずだね」 すずかは、その様子を微笑みながら見つめている。 「くぁwせdrftgyふじこl;p@:…っ!」 足の痛みと、アリサの人食い虎の如き凄みのある笑いで固まっている男が、すずかに救いを求める ような視線を送る。 「アリサちゃん、もういいんじゃない?」 すずかがアリサの肩を軽く揺すると、アリサは思いっ切り踏みにじってから足を外す。 男は足を引きずりながら、ほうほうの体で逃げ出した。 「なのはちゃん、大丈夫だった?」 すずかが言うと、高町なのははほっと肩の力を抜き、二人に頭を下げる。 「アリサちゃん・すずかちゃん、ありがとう~」 「とんだのにひっかかったわね。あいつ、ウチの大学では超有名な自称“愛の伝道師”なのよ」 アリサが苦虫を潰すかのように言うと、すずかは微笑んだまま後を続けた。 「で、ことごとく失敗してる事でも有名なの」 「そう、あたしもすずかもあいつの毒牙に危うくかかるところだったんだから。まぁ、頬に2~3日 は引かない腫れを作ってやったけどね」 腕を組んで言うアリサに、なのはは人差し指で頬をかきながら苦笑する。 「あはは。アリサちゃん、会うごとにどんどん過激なってない?」 「現実に鍛えられてタフになってると言いなさい。なのはだって、管理局のエース・オブ・エース なんだから、あんなバカは魔法で吹っ飛ばせば済むじゃない」 「無理だよ~。一般人にそんな事したら、魔導師資格剥奪された上に刑事罰で実刑になっちゃう」 三人が笑いあった時、なのはの背後で小さい子供の声がした。 「ママ?」 「あれ、ヴィヴィオちゃんも来てるの?」 すずかが尋ねると、なのはは頷いてから後ろを振り向く。 「うん。ヴィヴィオ、もう大丈夫だよ」 なのはがそう言うと、後ろから迷彩色のキャミワンピースを着た、オッドアイの小さい女の子が出てきた。 「ママ、大丈夫?」 心配そうに見上げる高町ヴィヴィオを、なのはは抱き上げて微笑む。 「ママは全然平気、ヴィヴィオは?」 「ヴィヴィオも平気」 なのはの微笑みに、ヴィヴィオも満面の笑みで返した。 「こんにちはヴィヴィオ」 「お久しぶりね、ヴィヴィオちゃん」 二人が挨拶すると、ヴィヴィオも丁寧に頭を下げて挨拶する。 「今日は。アリサお姉ちゃん、すずかお姉ちゃん」 「で、今日の予定は?」 「そうねぇ…」 アリサが問いかけると、なのはは少し考え込んでから答えた。 「街へ出てお買い物をするかな? ヴィヴィオに何か綺麗な服とかアクセサリーとか買ってあげたいし」 「お買い物するの?」 ヴィヴィオの問いかけに、なのはは優しく頭を撫でて首肯する。 「うん、ヴィヴィオに似合う可愛らしい服を買ってあげる。それからお菓子もね」 「うん」 「ちょっと過保護じゃないかなぁ…」 アリサは苦笑しつつすずかに顔を向けると、すずかも首を傾げつつ微笑んだ。 「OK、じゃあ行くわよ」 そう言って、アリサとすずかは海側へと歩き出す。 「あれ、そっちは駐車場じゃ?」 なのはがそう言うと、アリサは人差し指をなのはの眼前で立てて左右に振る。 「ふっふっふ…」 アリサは含み笑いをすると、なのはに付いて来るよう身振りで示した。 前へ 目次へ 次へ
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高町なのは いつまでも教導官魂を忘れないエース・オブ・エース 都筑真紀 25歳になりましたが相変わらずななのはさんです。なにげに本編の笑顔担当だったりも。 第二部は日常系描写が増えるので、戦闘以外での出番が増えるかも? 緋賀ゆかり 25歳になったなのはさんです! 前シリーズ『魔法少女リリカルなのはStrikerS』時よりも大人の雰囲気を出したいと思って描いています。 スバル・ナカジマ トーマを優しく見守る姉貴分の防災士長 都筑真紀 トーマが大変なことになっていたりティアナが別現場だったりで4巻ではいろいろ心配と苦労の連続な防災士長。 第二部ではわりとあははと笑ってられる……かな? 緋賀ゆかり ドラマCD『StrikerS サウンドステージX』の奥田(泰弘)さんのスバルの絵から数年、 時を重ねたイメージで髪型を調整しています。 フェイト・T・ハラウオン なのはとのタッグ健在 強く美しき執務官 都筑真紀 相変わらずなのはさんのピンチにはちゃんと駆けつけます、フェイトさん25歳。 BJ時には髪型も変わって、すっかり大人の女性です。 緋賀ゆかり フェイトさんも25歳ということで落ち着いた雰囲気を出すために髪型がひとつ結びになっています。 八神はやて いまだ真意は謎に包まれた特務六課司令 都筑真紀 がんばるちびたぬ部隊長、25歳ですが身長はあまり伸びてません。 気苦労と不運続きな部隊長ですが、明るいみたい目指して頑張って欲しいところです。 緋賀ゆかり 前髪に分け目ができて左耳に髪の毛をかけて後ろ髪を流しています。 実は、『魔法少女リリカルなのはStrikerS』の時より少し痩せた、という設定になっているようです。
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「なのはちゃん…!」 はやてはそう一言呟いたきり言葉を失う。 「ザフィーラさん! 急いで下がって下さい!!」 なのはの言葉に、ザフィーラは頷いて後方へと飛び去る。 はやては急速に遠ざかって行くなのはの姿を、心配そうにいつまでも見つめていた。 「そうはさせるかよ!」 スタースクリームはそう言って二人目掛けてミサイルを一発放つ。 “アクセルシューター、ドライブイグニッション!” ミサイルが発射されるのと同時になのはが持つ長杖型のデバイス、レイジングハート先端部にあるコアに文字が表示される。 「シュート!」 なのはがそう叫ぶと同時にピンクの魔力光が一筋放たれ、はやて達を狙うスタースクリームのミサイルに命中する。 バラバラになって落ちていくミサイルを見たスタースクリームは、はやてからなのはに顔を向けて感心したような口調で言う。 「ほぉ? ちったぁやるようだな」 次いでスタースクリームは右手を上げて、機銃の狙いをなのはに定める。 「目標変更だ、まずはてめぇから血祭りに上げてやる!」 その言葉と共にスタースクリームの銃口が火を噴き、なのは目掛けて機銃弾の雨が降り注ぐ。 同時になのはもアクセルシューターを連射してスタースクリームの機銃弾をことごとく撃ち落としていく。 「しゃらくせえ!」 スタースクリームは毒づくと、ミサイルを乱射しながらなのはへ目掛けて一直線に突っ込んで行く。 なのははスタースクリームと等速で後退しながら、ミサイルをアクセルシューターで次々と撃ち落とす。 “ファントム・スマッシャー” レイジングハートに再び文字が浮かび上がる。 「シュー―――」 なのはがより強力な攻撃魔法を放とうとした時、スタースクリームはアフターバーナーをかけて一気に距離を詰めて来る。 「―――ッ!」 反射的に左横へ回避動作を取らなかったら、なのはは金属の巨体とまともにぶつかって弾き飛ばされていただろう。 「ちっ!」 スタースクリームが舌打ちしながら急停止するのと同時に、なのはの胸元のリボンが切れて落ちる。 振り向いたスタースクリームの両手には短刀と鞘があった。 スタースクリームが鞘とナイフの柄を合わせ、それぞれ左右逆方向に回すと金属が擦り合う音と共に薙刀へと変わる。 スタースクリームはそれを片手で持ち上げて振り回しながら、再び超スピードでなのはへと斬りかかる。 なのはは間一髪の差でそれを回避するが、そこへすかさず反対側の刃が襲い掛かる、それに対してなのははプロテクションを 斜め横に展開して、力点をずらして刃を受け流す。 縦横無尽なスタースクリームの薙刀さばきに、なのはは回避だけで手一杯の状況に追い込まれた。 このままでは真っ二つに切り裂かれるのは、誰の目にも明らかだ。 「どうしたぁ、もう終わりかぁ!?」 雄たけびを上げながら薙刀を振るっていたスタースクリームの右腕が突然動かなくなる。 「!?」 いきなりの事に戸惑ったスタースクリームが手元を見ると、薙刀を握っている右手にミッド 式魔方陣から伸びる鎖の形をしたバインドが絡みついていた。 捕縛盾(バインディングシールド)で動きが封じられている隙に、なのはは後方へ最大限の速度で飛ぶ。 スタースクリームもすぐ我に返り、戦闘機に変形して捕縛盾を引き千切ってその後を追う。 “マスター!” レイジングハートが言葉を掛けると、急速に距離を縮めるスタースクリームを見詰めながら 頷いて答える。 「うん、速いね。詠唱している余裕はないみたい。レイジングハート!」 なのはの指示を受けて、レイジングハートはなのは共同で開発したオリジナルシステムを起動させる。 “了解、TTS(Thinking Tuning System=思考同調機能)を起動させます” なのはがデバイスを構えたのを見たスタースクリームが、嘲りの笑みを浮かべながら再びアフターバーナーをかけて一気に詰め 寄ろうとしたその時。 “エクセリオンバスター” レイジングハートのコア表面に文字が浮かぶと同時に金色の大きい魔力光が放たれ、スタースクリームの顔面に直撃する。 「がっ…!」 思わぬ衝撃にスタースクリームがのけ反り返ると、なのははそこへ間髪入れず立て続けに撃ち込む。 “バスター! バスター! バスター! バスター!” 次々と撃ち込まれる攻撃魔法に、スタースクリームは路上に叩き落とされる。 なのはは攻撃を中止し、カートリッジを排挾するレイジングハートを構えたまま様子を見る。 埃と煙が収まると、路上には引き潰された蛙のように、仰向けで無様にぶっ倒れている スタースクリームの姿があった。 「野郎ォ…!」 スタースクリームは起き上がると、なのはを憎々しげに睨み付けながら飛び上がろうとする。 その時、スタースクリームの右横に空間モニターが一つ開いた。 「スタースクリーム、人間一人に何を手こずっておる?」 メガトロンからの突然の通信に、スタースクリームは狼狽を露わに答える。 「こ、これはメガトロン様。相手が思いの外手強いもので…。ですがご安心を、すぐに潰してご覧に入れます」 「最初の目標をあっさりと逃してか?」 「あ…い・いや、それは、その…」 なのはは、スタースクリームが自分を放って誰と通信を交わしている様子を、怪訝な表情で見ていた。 一方、そんななのはにお構いなく、メガトロンは言葉に詰まったスタースクリームをからかうように言った。 「もういい、その人間は儂が直々に相手をしてやろう」 「お・お待ちくださいメガトロン様! こんな人間程度でお出ましになる必要は―――」 そう言いかけたスタースクリームの言葉をメガトロンは苛立たしげに遮る。 「いいから下がれスタースクリーム! これは命令だ!」 そう言われたスタースクリームは、肩を落として答える。 「わ、分かりました…」 モニターが切られると、スタースクリームは苛立ち紛れに路面を蹴飛ばして舗装を辺り一面に撒き散らす。 「畜生! あと少しってところで邪魔しやがって!!」 ひとしきり悪態をつくと、なのはを睨みつけながら言う。 「命拾いしたな人間! だが、メガトロン相手じゃ塵一つも残らんかもな!」 そして戦闘機に変形すると、捨て台詞を残して飛び去って行った。 「あばよ! せいぜい五体満足で葬式を出してもらえるよう、お祈りでもしとくんだな!!」 「…!?」 突然スタースクリームが引き揚げた事に、なのはは首を傾げていると、彼女の真横で空間モニターが開いた。 「高町一佐、たった今聖王教会より魔神が飛び立ったと報告がありました!」 そう喋る、黒毛の目の大きいゴリラのような顔のオペレーターの緊張した表情から、なのははスタースクリームが引き上げた 理由と次に何が起こるかを悟った。 「狙いが私…ですね?」 言うべき事を先を取られたオペレーターは驚いたような表情を浮かべたが、すぐに平静に戻って話を続ける。 「は、はい! 八神一佐から高町一佐に攻撃目標が変わったと推測されます! 大至急―――」 「分かりました、直ちに迎撃に向かいます」 オペレーターの言葉を遮って、なのはは言う。 「え!? あ、あの…一佐…」 言葉に詰まったオペレーターが当惑した表情で周囲を見回すと、モニターの表示はゲラー長官に切り替わった。 「高町一佐、相手は君と同じオーバーSランクの聖王教会法王を苦もなく屠った化け物だぞ」 冷徹な口調で言うゲラー長官に、なのはは決然とした表情で答える。 「分かってます。ですが敵の狙いが私であるなら、もし引き上げた場合クラナガン市街への更なる被害が懸念されます。 その点、私が洋上に出て迎え撃てば、魔神の市街地への侵入は阻止できますし、万が一私が敗れればそれで満足して引き 揚げる事も考えられます」 「確証はあるのか?」 再度問い掛けられた時、なのはの中では迷いがあった。魔神の狙いと市街への被害について、そしてセクター7内で見た凍り 漬けの魔神が放っていた禍々しさに対する恐怖。 「あります!」 それらの感情を押し殺し、なのはは自信ありという態度で断言する。 一方、ゲラー長官も答えが出るまでの一瞬の間に、なのはの迷いと恐れを敏感に感じ取っていた。 そして、なのはの言葉にも理がある事を、相手が相手だけになのは以外では対抗する術がない事も、十二分に理解している。 「分かった、君に任せよう」 ゲラー長官はなのはの提案を受け入れると、念を押すように言葉を続けた。 「だが、決して無理はするな。勝てないと思ったらすぐに逃げろ、いいな?」 「はいっ!」 長官の言葉を受けて、なのはは力強く頷いた。 ブロウルが次々とミサイルを発射すると、ティアナはバイクを急発進させて回避する。 目標を見失ったミサイルはそのまま路上や建物に命中して煙と破片を撒き散らす。 煙と埃で視界を遮られたブロウルに、ティアナから撃ち出された魔力弾が命中するが、ことごとく装甲表面で弾かれて傷一つ負わせる 事が出来ない。 弾は派手に飛び交う割に、状況はほとんど変化しないという奇妙な膠着状態に、ブロウルは苛立ちも露わに唸り声を上げる。 一方、ティアナの方は敵の注意を自分に引き付けて、市街地から廃棄都市区画へブロウルを誘導する…という作戦を立てて動いていた。 作戦自体は今のところ順調に行っていると考えてます差し支えなかった。 “セイン、あとどれくらい?” 先行して目的の廃棄都市区画までの距離を計測しているセインへティアナは問いかける。 “あと五分ほどです” それを聞いたティアナの顔に笑みが浮かぶ。 “OK! 魔力の散布は既に十分だし、廃棄都市区画まで誘い込めれば―――” ティアナの念話は、 セインからの悲鳴に近い警告に遮られる。 “し、執務官補! 未確認物体が一つ急速に接近中です!” それと同時に、人型に変形したダブルフェイスが、うらぶれた雑居ビルを突き破ってティアナへ躍りかかる。 「!!」 いきなりの事にティアナが驚愕の表情を浮かべると同時に、乗っていたバイクが突然乗り手を空中に放り投げて上半身女性、下半身 車輪の機械人間に変形する。 人間に変形したバイクは路面スレスレまで身体を倒してダブルフェイスの下を掻い潜る。 攻撃をかわされたダブルフェイスは、そのまま派手に地面を転げまわる。 一方、女性型機械人間の方は再びバイクに戻って、真上に落ちてきたティアナを受け止める。 「え…!? え、ええ…!?」 突然の事に呆気に取られているティアナを乗せて、バイクは猛スピードで走り去る。 「“サイバトロン”…だと!?」 攻撃を避けられたダブルフェイスが、呻くように低く呟いた。 洋上に出たなのはは、背後に拡がるクラナガン市街の方を振り向く。 市街のあちこちから煙が立ち上り、緊急車両のサイレンの音が遠く離れたなのはの耳にも聞こえてきた。 “マスター” レイジングハートに促されて、なのはは海の向こうに再び目を向ける。 魔神の姿は見えないが、相手はこちらの姿を捉えて確実に近づきつつあるのが、皮膚越しにはっきりと感じ取れる。 なのはは、自分の手持ちのカートリッジの確認を始める。 レイジングハートには全6発中半分使ったカートリッジが1本、バリアジャケット内のアンモパウチには全弾装填されたカートリッジが 4本、普通なら戦うには充分だが魔神相手では心もとないように、なのはには感じられた。 “相手は聖王教会法王を屠った怪物…だったね” なのははレイジングハートに話しかける、TTSによる、念話すら介さない直接の思考のやり取りなので、処理時間も速く、秘匿性も 段違いに優れている。 “はい、マスター” “と…なると、長期戦は絶対に禁物、短期決戦で決着を付けなければならない” “はい。それも全力を出せる一瞬の間で決するかと思います” “瞬間で相手に総てを叩きつなければ、こちらに勝機はない…って事?” “そうです、マスター” “と、なると…” 会話を始めてから結論が出るまでにかかった時間はわずか一秒ほど。 レイジングハートが差し込まれたカートリッジを全弾ロードすると、なのはは次のカートリッジに交換する。 持てるカートリッジ総てを使い切ると同時に、“ブラスターモード”に移行したレイジングハートから左右大きな光の羽が二枚、上下に 四枚の羽根が現れ、“ブラスターピット”と呼ばれる金色に光る三角形の小型飛行物体がなのはの両肩に二機ずつ現れた。 オペレーターがなのはに告げる。 「魔神の到達まであと数分、視認が可能になります」 なのはが空を見上げると、遥かな高空から炎の塊が一つ、急速にこちらへと降下しているのが見えた。 “古代ベルカの驚異的な発展を可能にし、そして恐らく滅亡の本当の原因ともなった秘宝中の秘宝…” “…死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る…” なのはの中で、シモンズの言葉とカリムの預言がよぎる。 “レイジングハート…ホントにいい?” 死と隣り合わせの状況を前に、なのはは意思確認するかのようにレイジングハートへ話しかける。 “もちろんですマスター、あなたと私は死ぬまで一緒です” レイジングハートからの、主と運命を共に出来る事を喜ぶ返事に、なのははわずかに表情をほころばせた。 「高町一佐! 魔神は既に攻撃可能範囲に入っています!」 オペレーターが呼び掛けても、なのははレイジングハートを構えたまま、身動き一つ取らない。 「いったい何を考えて…!」 「…自殺でもする気か?」 「待っているんだ」 騒ぐ幕僚たちを制するかのように、ゲラー長官の言葉が重く響いた。 それを聞いた幕僚たちは、水を打ったかのように静まり返り、長官に目を向ける。 「相手が相手だけに長くは戦えない…となると、ギリギリまで引きつけて短時間、それも一瞬で全力を叩きつけて倒すつもりだろう」 それを聞いた幕僚たちの視線は、再びモニター上のなのはに集まった。 初めは小さな流星だった魔神の姿は、降下するにつれて大きくなり、今や天をも焼き尽くさんばかりの劫火となって、なのはを 押し潰さんばかりに迫ってくる。 “400km…350km…300km” レイジングハートは魔神の姿を視認すると同時に、距離を計測してなのはに伝えている。 並みの魔導師なら逃げ出すか気を失うような凄まじいプレッシャーがかかる中、なのははレイジングハートを握り締め、魔神から 視線を外さない。 なのはの様子を見たメガトロンは、ニヤリとほくそ笑むと更に加速とプレッシャーをかける。 “100km…50、40、30…10、9、8…” 距離が二ケタを切っても、なのははなおも動かない。 “…1” レイジングハートがそう告げた時、なのはは遂に自らの切り札を出した。 “スターライトブレイカー” 次の瞬間、レイジングハートとブラスターピットから桜色の目も眩むような強烈な光が溢れ出し、なのはの眼前に迫った魔神を 包み込む。 光の勢いはそれで減じる事はなく、そのまま空を駆け昇り、成層圏を突き抜け、そして…。 「スターライトブレイカー、月面に着弾しました」 NMCCでは、恐竜のような長い首に赤いつぶらな瞳のオペレーターが、茫然とした表情で報告する。 「魔神が完全に破壊されたかどうか、大至急確認させろ」 額から角が二本生え、めくれ上がった唇から牙が露わになった幕僚が指示を出すと、オペレーターは真顔に戻って空間モニター を開く。 「どう思いますか?」 ヘルメットを被った女性幕僚がゲラー長官に尋ねる。 「普通に考えれば、これで一件落着…と言いたいところだが…」 長官の後を継いで、ゲンヤ少将が続ける。 「相手が相手だけに、油断は禁物ですな」 レイジングハートが排気してアクセルモードに戻ると、持てる力総てを出し切ったなのはは、グラリと体勢を崩す。 深呼吸して体を落ち着かせようとするが、そんな努力を裏切るように激しい動悸と嘔吐感が襲う。 少し落ち着いてから空を見上げると、魔神の姿は見当たらない。 なのはの顔にかすかに安堵の表情が浮かんだ。 一方、本局の方では幕僚たちが緊張した面持ちで、月面の状況の報告を待っていた。 「このまま完全に破壊されてればいいが…」 幕僚の一人が言うと、もう一人が首を横に振りながら言う。 「あんまり過大な期待はしない方がいいが、せめて動けなくなるぐらいならば…」 幕僚たちの希望的観測には意に介さず、ゲラー長官は無言で席に座っている。 空間モニターが開いて、幕僚たちの議論が途絶える。 「各地の観測所の報告を総合した結果、月面上には残骸も何も確認できません。 蒸発したのでなければ、まだ動いている可能性が」 その報告に、場の空気が一気に凍りついた。 同じ時、なのはも突然膨れ上がる殺気を感じ取った。 「マスター!」 レイジングハートからの警告を受ける前になのははプロテクションを展開する、と同時に足元の海から大きなエネルギー弾が なのはを襲う。 プロテクションで辛うじて防いだものの、それで複数張ったシールドは完全に砕け散ってしまう。 続いて二発目が撃ち込まれ、これはなのはを直撃して体を宙へ舞い上げる。 「貴様の力、その程度か!」 その声と共に海を裂いて魔神が空へと躍り上がる、名前の由来となった銀色に輝くボディには傷一つ見当たらないない。 「よく見ておけスタースクリーム、本当の体当たりとは、このようにやるのだ!」 魔神はそう言いながら右手を伸ばして落下するなのはを掴むと、ゆりかごに変形して猛スピードでクラナガン市街へと飛ぶ。 本局NMCCは、魔神が無傷で現れた事で大混乱に陥っていた。 オペレーターも士官も幕僚も、みな空間モニターに怒鳴り声を上げ、右往左往する。 「オペレーターに魔神がどこへ向かってるか至急確認させろ!」 そんな状況の中、ゲンヤ少将は近くで茫然と立っていた、赤い顔に長い花をした士官の襟首を掴んで大声で指示を出す。 命令を受けた士官は我に返ると、NMCCへ駆け出してオペレーターの一人にそれを伝える。 オペレーターは周囲の同僚にも協力を仰いで、なのはと魔神が戦った位置と現在位置を基に進路上にある大きい建造物を調べて 行く。 「本局か!? 「いや、それなら進路は少し北にずれてないか?」 「と、なると…」 少し議論した後、オペレーターは結果を士官へ報告した。 「目的地は本局、または次元世界貿易センタービルと見られます」 次元世界貿易センタービルとは、本局に次ぐ750階という高さを誇る高層建築物で、複数の世界で活躍する多国籍企業の多くが 本社機能を持つオフィスを構える、次元世界の経済の中枢とも言える建物である。 「マスター、魔神は次元世界貿易センタービルに向かっています!」 レイジングハートがなのはに状況を伝えるも、スターライトブレイカーで全力を出し切った事に加え、先程の攻撃によるダメージで 身動きすらままならない。 意識が途切れそうになるのに必死で抗いながら、なのはは魔神の向かう方向へ顔を向ける。 ビルが急速に近づいてくるのを見た時、何も出来る事がない事をなのはは悟った。 せめてダメージだけでも最小限度に抑えようと、なのはは残る力をフルに使ってプロテクションを幾重にも展開する。 総ての力を使い果たしたなのはが意識を失うのと同時に、魔神はセンタービル529階のフロアに突っ込んだ。 前へ 目次へ 次へ
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3 クラナガンは、時空世界を統括するミッドチルダの首都である。 旧暦時代の戦火で廃墟と化した都市を取り壊し、区画整理しながら拡大・発展してきた。 時空世界の中心地として、管理内外の様々な世界の種族が集まるこの超巨大都市には、三つの政府機関がある。 一つ目は、行政機関として総ての時空世界に君臨し、政府の意思決定機関でもある元老院。 二つ目は、立法を司り、唯一の法律制定機関である最高法院。 そして三つ目は、司法・軍事・治安を一手に引き受けている時空管理局。 その中枢である時空管理局本局ビル(旧地上本部)。 1000階建てのセントラルタワーと、その周囲を守護騎士の如く囲む500階建てのサブタワーが周囲を圧倒する この超高層建築物には、JS事件後の組織改革で管理局の全機能が集約される事となった。 しかし、同事件で500階より下のフロアの多くが破壊又は損傷を受け、その修理工事も完了してない現状では、 999階に長官室、998階は統合幕僚会議の議場、それ以外のフロアは、陸上部局と次元部局の臨時オフィスと NMCC(国家軍事指揮センター)の一部が稼動を開始しただけである。 アール・デコ様式の幕僚会議議場控え室は、招集をかけられた管理局幹部及び、上級職員でごった返している。 彼らは、議場が開くまで雑談したり、ホールのあちこちにある空間モニターで、最新のニュースをチェックしたり していた。 モニターには、現在クラナガンで起きている、デモ隊と管理局治安部隊の衝突についてのニュースが流れている。 綺麗にメーキャップされた、青いスーツ姿のアナウンサーが営業スマイルを顔に貼り付けて、原稿を淡々と読み 上げていた。 「本日朝8時より、クラナガン第28区のフューリーダ通りで行われている、分離主義派一般民によるデモは、デモ隊 内部に紛れ込んでいた過激分子によって暴動に発展し、現在、管理局機動一課第6師団の陸士部隊が鎮圧に当たって おります」 画面は緊張した表情で体を屈め、絶えず背後を気にしながら実況をしている、青色の肌に二本の触角状の角を頭に 持つ、水色のYシャツを着たレポーターに切り替わり、画面下部には、地球人類のとは異なる文字のテロップが 表示される。 テロップを日本語訳すれば、KBC(クラナガン放送局)のロゴと生中継の表示、バーズ・ダドゥアという レポーターの名前になる。 「フューリーダ通りのデモ現場です。えー、現在わたくしの背後では…デモ隊と陸士部隊の 激しい衝突が繰り広げられております」 それと同時に、カメラは衝突現場の方へズームする。 画面には、魔方陣を展開して暴徒鎮圧用に設定された魔力弾を発射する陸戦魔導士数名と、 その攻撃から逃げようと必死に走るデモ隊が映し出される。 路上には弾が命中して、うずくまったりのた打ち回ったりするデモ参加者と、投石に使われた 石や逃げる際に捨てられたプラカードが見える。 プラカードの幾つかには「我等に当然の権利を!」「私達は奴隷ではない!」と書かれている のが読み取れた。 「えー、最初はデモ隊が陸士部隊の前でプラカードを掲げ、シュプレヒコールを叫びながら歩いて 回っておりましたが、いつしか自然発生的に石を投げつける者――」 すぐ近くで物が割れる音がして、レポーターの話が途切れる。 「えー、それからプラカードで殴りかかる者や、停まっている車をひっくり返す者が出始めた為、 その鎮圧のために陸士部隊が発砲を―――」 今度はヒュッと何かが目に見えない速さで走る音がして、画面端に映る車のフロントグラスが粉々に 砕け、破片がレポーターや画面に降りかかる。 「伏せろ! 伏せるんだ!!」 レポーターはそう言って地面に倒れこみ、画面も上下左右に揺れる。 再び画が安定した時、視点は地面スレスレにまで下がっていた。 画面には、石や、どこから持ってきたのか8インチのテレビモニターを投げつけるデモの群衆、 そこへデバイスを向ける陸士たちが通りの向こうに映っている。 彼らの発砲で、五~六人が倒れるのが見えた。 それと前後して、複数の人間の怒号が聞こえたかと思うと、画面真正面に路面へ叩きつけられる 人の顔が映る。 苦痛にゆがんだその顔を陸士のブーツが踏みつけるのと同時に、画面はスタジオのキャスターに 切り替わった。 「中継が途切れましたので、スタジオより引き続き…」 「ふん、何が“我らに当然の権利を”だよ」 ブラウンカラーの管理局職員用スーツにミニスカートの、どう控えめに見ても十五歳以上 には見えない少女が、キャスターの解説を聞き流しながら苦々しげに呟いた。 「あたしら管理局が次元世界と主要地上世界の安全を守る為に、どれだけの犠牲を払って きてるか分かって言ってんのか?」 「ヴィータ」 ヴィータという名の少女の横に立つ、ピンク色の長髪をリボンでポニーテールに束ねた、 同じ制服にミディスカートの、二十代前半の女性がヴィータを窘めるように言う。 「でも、そうだろシグナム? 魔術の力も無く、身を守る術のない只の一般民が――」 ヴィータがシグナムと呼んだ女性は、ヴィータの肩に手を置いて厳しい表情で言う。 「ヴィータ、お前は主はやてに同じ事を言えるのか?」 シグナムの言葉に、ヴィータははっとした表情でシグナムを見つめる。 「主はやても、かつては彼らと同じ…いや、それ以上に無力だったのだぞ。それを忘れるな」 「う…うん」 ヴィータが力無く俯いて答えた時、白の教官用制服を着たなのはが二人の所へやって来た。 「お待たせ。ヴィータちゃん、シグナムさん」 「ああ、なのはか」 「なのは…」 弱々しく呟いて顔を伏せているヴィータに、なのはは訝しげな表情で問いかけた。 「ん? どうしたの、ヴィータちゃん?」 「いや、あの…」 言いよどんだヴィータに、なのはは微笑みながら言う。 「何か悩み事があるなら、私でよければ聞いてあげるよ」 俯いていたヴィータは、意を決したように顔を上げてなのはに言った。 「なのは…。あたし、いつの間にか思い上がってみたいだ」 「え!?」 ヴィータが先のことを話そうとした時、二等陸曹の階級章を付けている、蠅の顔をした管理局員 がやって来た。 「高町なのは一等空佐と…シグナム三等空佐にヴィータ一等空尉でございますね?」 三人が頷くと、陸曹は空間モニターを開いて説明を始める。 「皆様がこれから受け取る情報は、機密扱いです。よって議場内でお聞きいただく内容は、親類縁者は もちろん、無関係の局員に対しても全て他言無用です。この会議も機密となり、皆様がここに来た事も 公式の記録には残りません」 三人とも気後れする事無く普通に頷いた。仕事柄、この種の制約に受ける事がザラだからだ。 「では、こちらの機密保持誓約条項に捺印を願います」 三人は陸曹が開いたモニターに、一人ずつ人差し指を押し当てる。 「大変お待たせいたしました、議場へお入りくださいませ」 陸曹はそう言って丁寧に頭を下げると、他の雑談をしている将校グループの方へと歩み去る。 「じゃあ行こうか」 なのはが言うと、シグナムとヴィータの二人は頷き、議場入口へと向かう。 「で、ヴィータちゃん。さっきの話って何だったの?」 なのはに促されて、ヴィータは先程の事を再び話し始めた。 管理局統合幕僚会議々場は、最大一千名を収容できる大規模なホールで、演壇のあるステージを基点に、 扇形に聴衆用の座席が置かれている。 議場全体は音響設計とデザインの両立を目指した幾何学的オブジェで彩られ、暗幕が下げられたステージ の後ろには、管理局のエンブレムが吊り下げられている。 議場中央部の辺りの聴衆席、7~8メートルはあろうかという身長の長い鼻の巨人の隣に、なのはたち三人は、 話をしながら座る。 「そうだったんだ…」 ヴィータの話を聞いたなのはは、難しい表情で言った。 「シグナムに思い上がりを指摘されるまで、すっかり忘れてたんだ。 かつて、はやてと出会うまであたし達がどんなに道具として扱われてきたか、それがどれだけ嫌な事だったかを…」 そう言って落ち込んだヴィータに、なのはは慎重に言葉を選んで答える。 「ヴィータちゃん、人が…危険を承知で一生懸命主張している事に対して、無力だからって見下げるのは確かに 良くない事だよ」 なのはの言葉に、ヴィータは顔を伏せ、両手を強く握ってかすかに頷く。 「でもね、そうやって自分で過ちを認められたんだから、その間違ったと思うところを改めて行けばいいと 思うよ」 なのはは、そう言ってヴィータの頭を優しく撫でる。 「そうか…って、撫でんなぁ!」 なのはに頭を撫でられて微笑んでいたヴィータは、自分が子ども扱いされている事に気付き、頬を赤く染め ながら、頭を振って腕を振り払う。 「あはは。ごめん、ヴィータちゃん」 「ふんっ!」 なのはが頭を掻きながら謝ると、ヴィータは顔を赤くしたまま、腕を組んでなのはから顔をそらした。 「しっ、長官が参られたぞ」 人差し指を口に当てながら言ったシグナムの言葉に、二人は話を中断してステージに視線を向ける。 緑の顔に金色の鶏冠のある蜥蜴人間を先頭に、日系や白人と思われる地球人類系や『エイリアン』を 思わせる、後ろに頭の突き出た亜人種といった男性数人と、二十代後半の冷たい雰囲気を漂わせる 眼鏡をかけた女性一人の、幕僚たち数人が演壇へと歩いていた。 全員、青の上級幹部用スーツと男性陣は白のスラックスを、女性はシグナムと同じミディスカートに ストッキングを履いている。 「オーリス秘書官、私の見たところ、その…ずいぶんと若い者が多いように感じるのだが」 演壇に立った蜥蜴人間が、周囲を見回しながらオーリス・ゲイズという名の女性秘書官に言うと、 オーリス秘書官は淡々と答える。 「ゲラー長官、全員各部門のエキスパートです。 最近、管理局では目ぼしい人材を学卒の段階で確保するようになってきておりますので、必然的に 若者が多くなります」 ここで少し間をおいてから、オーリスは念を押すように言う。 「重要なのは能力であって、年齢ではありません」 初代時空管理局長官ディグ・ムデ・ラ・ゲラーは、それでも不安げに首を振りながら言った。 「それはそうだ。しかし、今回は事の重大さを考えると、多少なりとも成熟した人材の方が望ましい のだが…そう思わんかね? ナカジマ空佐」 話を振られた初老の日系男性、ゲンヤ・ナカジマ一等空佐は苦笑いしながら長官に答えた。 「理想を言えばその通りでしょうが、現実はこの通りですし、若くても成熟した人間は幾らでも居ますから」 ゲラーは、首をすくめて頷くと、もう一度聴衆を見回し後でマイクを口元に寄せた。 「ディグ・ムデ・ラ・ゲラーだ。来たばかりの者は、空いてる席に適当に座ってくれ」 具体的な自己紹介の必要はないという事が分かっているので、ゲラー長官は、早速話を始めた。 「分かっている者も居るとは思うが、まだ、状況を飲み込めていない者も居るだろうから、改めて 説明しよう。 昨日、現地時間十七時三十八分、第1158管理外世界のセギノールという地にある、管理局中央基地が 攻撃を受けた。 当基地には、陸士部隊五百十九人と空戦部隊百四十六人が常駐し、攻撃当時は次元航行艦一隻に ロストロギアの探索任務中だった執務官一名が居たが、不意の攻撃になす術が無かったらしい。 現在のところ、生存者は確認されていない」 ゲラーはここで一旦言葉を切り、聴衆に意味が浸透する時間を置く。 初めて事情を知った者たちからの、不安げなざわめきが議場に満ちる。 ゲラーが話を再び始めると、全員彼の話を一言一句聞き漏らすまいと、息を潜めて聞き入った。 「一般には一時間後に公表するが、諸君らには先に伝えておく。 今のところ、何処の勢力による攻撃かは不明だ。また、分離主義派を含む、反管理局勢力からの 声明もない。 手がかりとなるのは、この信号音だけだ」 ゲラーが振り向いて頷くと、オーリスは空間モニターを開いて何事か言う。 すると、議場全体に設置されたスピーカーから、耳をつんざくような甲高い騒音が響き渡った。 「これは、襲撃者が管理局のネットワークシステムをクラッキングしたときの信号だ。 後の調査で、攻撃の目的は我々のネットワークの最深部に侵入する事だったと推測されている。 幸い、基地職員の賢明かつ勇敢な判断で、クラッキングは途中で阻止する事が出来た。 しかし、どんな楽観的な見通しに立っても、同種の攻撃が再度行われるのは確実であるため、 現在タイコンデロガは信号の解析とクラッキングの対策に取り掛かっている」 ゲラーは身を乗り出して、議場の聴衆一人ひとりを見つめながら、念を押すように言う。 「元老院は、第1158管理外世界に次元航行部隊と地上部隊の大規模派遣を決定した。これに伴い、 管理局もDEFCON3体制へ移行する。 ここに居る者は、戦闘と諜報のエキスパートだけだ、君たちのこれからの働きに期待する」 ゲラーは演壇から去ろうとした時、言い忘れていた事が一つある事を思い出して、マイクに向き 直った。 前へ 目次へ 次へ
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なのはが顔を上げると同時に、医務室のドアが開いてヴィータとシグナムが姿を見せる。 「シャマルー、お昼一緒にどうだー?」 そう言いながら部屋に入ってきたヴィータは、なのはの姿を見て軽い驚きの表情を浮かべた。 「あ、なのはも来てたんだ」 その言葉に、なのはは頷いて答える。 「うん、時間がちょっと空いたから、シャマル先生に診てもらってたの。 二人ともこれからお昼?」 ヴィータの後に続いて部屋に入って来たシグナムが、なのはの問いに答える。 「私とヴィータが丁度同じ時間に空いたから、シャマルはどうかなと思って来たんだが…邪魔だったかな?」 シャマルは微笑みながら首を横に振る。 「ううん、なのはちゃんの検査も終わったところだし、一緒に食事へ行くにはいいタイミングよ」 突然、ヴィータが何か忘れていたことを思い出したような表情で手を叩いた。 「あ、そうだ。なのはに知らせたい事があったんだ」 「何?」 「テスタロッサが救助された」 その言葉を聞いた途端、なのはは文字通り血相を変えてヴィータに飛びつく。 「本当!? どこで助けられたの? 怪我は?」 なのはから矢継ぎ早に質問を浴びせかけられながら、ヴィータは肩を掴まれてガクガク前後に激しく揺さぶられる。 見かねたシグナムは、なのはの肩に手をかけて言った。 「落ち着けなのは、それではヴィータが答えられん」 「え!? あ…ご、ごめん」 我に返ったなのはが、ヴィータから手を離す。 「の、脳味噌がプリンになるかと思った…」 目を白黒させ、頭を押さえながらヴィータが言うと、なのはは心配そうに言う。 「ごめんね、大丈夫だった?」 なのはの様子に、ヴィータは首を横に振って笑みを返した。 「いいって、テスタロッサが心配なのは、あたしやシグナムだって同じだからさ」 二人の会話が終わったのを見計らって、シャマルが全員に提案する。 「詳しい話は歩きがてら…でどうかしら?」 その提案に、なのは、ヴィータ、シグナムは揃って頷いた。 879階の医療エリアから、600階にある局員・来客用の会食テラスへと下りるエレベーターの中で、 四人は眼下の光景を眺めながらフェイトが救助された時の話を続けていた。 「―――で、ヴァイスとアルトのドロップシップに救助された…って事らしい」 ヴィータがなのはの方を見ながら言う。 「そうだったんだ…。フェイトちゃんの怪我は?」 ヴィータはなのはから眼下の光景に目を移し、腕を組んで考え込みながら答えた。 「詳しいことはまだ分かってないけど、数ヶ月は絶対安静なんじゃないか…ってアルトは言ってたな」 「そう…」 なのはは少しの間空を見上げた後、笑みを浮かべてヴィータに振り向く。 「でも、生きてるって分かって、本当によかった」 「だから言っただろ、スターライトブレイカーの洗礼を受けたテスタロッサが、その程度で死ぬはずがない…って」 シグナムがからかい半分に言うと、なのはは頬を膨らませてむくれてしまう。 「もー、またその話ですかー」 その様子を見たシグナムは安堵の笑みを浮かべた。 「ようやく、いつもの調子にもどったようだな」 まるでその言葉を合図にしたかのようにエレベーターが減速を始め、胃が競り上がるような不快感を エレベーター内の全員がかすかに感じた。 鐘の音に似せたドアチャイムが鳴ると、エレベーターのドアが音もなく開く。 談笑しながら降りる人間種・非人間種の局員達に続いて、なのは達がエレベーターから出るのと同時に、 陸上部局の制服を着た、紫色のロングヘアーの二十代前半ながら落ち着いた雰囲気の女性が、なのは達に 敬礼しながら声をかけてきた。 「皆様、お久しぶりです」 「ギンガ?」 なのはがそう言うと、スバルの姉ギンガ・ナカジマ二等陸曹長が改めて挨拶する。 「ご無沙汰しております、高町一佐」 「あたしも居るぞー」 そう言ってギンガの左肩から手を振って姿を現したのは、リインフォース∥と同じ身長の、ツインテールに セットされた真紅の髪が焔の色を思わせる、妖精と言うにはやんちゃ過ぎる印象の陸上部局員。 「アギトも来てたのか」 シグナムがそう言うと、人間型ユニゾンデバイス“烈火の剣精”ことアギト三等陸士が、拗ねたように頬を 膨らませながらシグナムの元へ飛んで行った。 「ひどいぞシグナム、あたしを置いてけぼりして勝手に食事に行くなんて」 アギトの言葉に、シグナムは頭を下げて謝る。 「すまん、 忙しい様子だったから声を掛けかねて…な」 シグナムの態度に、アギトは両手を前に出して周囲を見回しながら慌てて言う。 「そ、そんな…。頭を上げてくれよ」 シグナムが頭を上げると、アギトは納得行ったように笑みを浮かべながら言った。 「ああ、丁度仕事が立て込んでたんだ時に来たんだ。でも、ちょっと待っててくれれば終わったんだぜ」 シグナムも笑いを浮かべて言う。 「そうか…。分かった、次からはきちんと声をかけるようにしよう」 その言葉に安心したアギトは、シグナムの肩に飛び乗った。 「頼むぜ、行けるかどうかちゃんと答えるからさ」 「こんにちは、アギトちゃん」 なのはが声をかけると、アギトはシグナムの肩から飛び上がり、ガチガチに緊張しながら敬礼する。 「し、失礼しました高町一佐!!」 上ずった声で言うアギトに、なのはは微笑みを浮かべる。 「ううん、なのはでいいよ」 そう言いながらなのはに頭を優しく撫でられると、アギトは緊張を幾分か和らげ、顔を赤くしながら 「は、はい…な、なの…な、な…あだっ!」 “なのは”と呼べずに舌を噛んだアギトの姿に、シグナムたちは互いに顔を見合わせて苦笑を浮かべた。 「ところで…、何かあったの?」 シャマルが尋ねると、ギンガは言いにくそうに答える。 「はい。…あの…シャリオ・フィニーノ三等陸曹の事なんですが…」 シャーリーの名前が出てきた瞬間、アギトを除く全員が頭に手を当てたり、両手を組んだり、首を横に 傾げて困ったような表情を浮かべる。 「シャーリーは一体何をやらかしたわけ?」 なのはが眉を八の字に歪め、苦悩が前面に出た口調で尋ねると、ギンガは自分の事でもないのに非常に 申し訳なさそうな感じで話を始めた。 「はい、実は…」 第61管理外世界「スプールス」 この世界は、百メートル近くに及ぶ巨大な木々が生茂る広大な森に包まれた、多様かつ豊かな生態系が特色である。 それ故に先史時代より密猟者が絶えることなく、管理局は対策として現地で徴募した局員たちを主体とする、 “自然保護隊”と呼ばれる生態系及び原住民保護の部隊を常駐させていた。 森を切り拓いて作られた自然保護隊のベースキャンプ。 その中央部にある航空機類離着陸用の広場には四隻のドロップシップが駐機しており、その周りでは船に乗ってきた 別次元世界の行商人たちによる市場が開かれ、現地の住民たちに食糧から服飾品まで、様々な物品の売買を行っている。 「本日検挙した密猟者は以上です」 市場から少し離れた場所で、右手に槍型のデバイスを持つ、朱いジャンパーに膝下までの白い半ズボン仕様のバリア ジャケットに身を包む、まだ幼さの残る顔立ちをした十代半ばの少年魔導師が、自分の目の前にある空間モニターに 表示された名前を読み上げてから言った。 「では、こちらにサインをお願いします」 身長三メートル近くある、左右四つの目を持った恐竜のような外骨格型生物の、米軍の迷彩服に似た、管理局の標準 バリアジャケットを着込む局員はそう言うと、二つの爪を器用に動かして少年のモニターに犯罪者の引き渡しに関する 手続きの証明書を転送する。 少年は手続きの完了を示す欄に左手の人差し指を当てた後、局員のモニターに再度送信する。 「これで手続きは終了です。お疲れ様でした」 リストを確認した局員が敬礼すると、少年も局員に返礼しながら言った。 「お疲れ様でした!」 局員が囚人護送車へと歩き去るのと入れ替わりに、ピンク色のジャケットと髪に、白い帽子とロングスカートとマントの バリアジャケットを着た、少年と同い年の少女魔導師が、物が一杯に詰まった竹の編み篭を両手で抱えながら少年へと 駆けて来る。 「エリオくーん!」 「キャロ!」 エリオ・モンディアル二等陸士は、キャロ・ル・ルシエ二等陸士に笑顔で手を振った。 キャロはエリオの元に駆け寄ると、篭の口を開いて中身を見せる。 「見て見て、今日は沢山もらったの!」 中は様々な次元世界の果実や野菜がぎっしり詰まっていて、その豊富さにエリオも驚きの声を上げる。 「うわぁ…! これどうしたの?」 エリオが尋ねると、キャロは満面の笑みを浮かべながら説明した。 「行商人さんにパナオ地方から地元の動物を売りに来た人を紹介したの。 そしたら、害獣の被害がある世界で高く売れるって高値で買い取ってくれたから、お礼にって」 「へぇ…」 エリオは感心したように頷く。 「ミラさんも大喜だね」 キャロが笑顔で言うと、エリオも頷いて答えた。 「今日の夕ご飯が楽しみだよ」 「…突然やって来られても困ります。事前に連絡して頂きませんと… 保護隊所属を示す緑色の制服を着た三十代半ばの女性局員が、元老院所属を示す紺碧のローブに身を包んだ、 白い羽毛のような毛に覆われた、身長2メートル半ほどの細長い鳥を思わせる生物と押し問答を繰り広げていた。 「何の前触れもなくお伺いした点は謝罪します。しかし、これは元老院大法官直接の布告(命令)であり、 何人たりとも拒否する事は出来ません」 威厳と落ち着きのある口調に、女性は何も言うことが出来なくなる。 「何だろう…?」 その様子を遠巻きに眺めながらエリオが呟くと、キャロも首を傾げながら首を横に振った。 と、元老院の使いと一緒にいる、大きな三白眼に光沢のある灰色の肌に艶やかなピンクの唇が対照的な、糊の効いた 黒一色のスーツと膝下までの長さスカートという、一分の隙もないキャリアウーマン風の女性型次元世界生物がエリオ たちの方へとやって来る。 女性は膝をついて二人同じ視点に立つと、声をかけてきた。 「エリオ・モンディアル君とキャロ・ル・ルシエさん?」 女性が尋ねると、雰囲気に気圧されていた二人は慌てて敬礼しながら返答する。 「は、はい。 エリオ・モンディアル二等陸士であります!」 「キャロ・ル・ルシエ二等陸士であります!」 女性は頷くと、空間モニターが発達したミッドチルダではすっかり廃れた、革製の身分証明カードを二人に見せながら 自分の所属と名前を言う。 「初めまして、わたくしの名はシル。 元老院大法官および聖王教会法王直属の極秘組織“セクター7”より、あなた方をお迎えに参りました」 これまで一度も会った事のない、雲上の存在でしかなかった人間の名が出て来た事に、エリオとキャロは困惑気味に 顔をただ見合わせる他なかった。 前へ 目次へ 次へ
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炎と煙、そして構造物の破片を周囲に撒き散らしながら、魔神はビル内を破壊しつつ突き進んで行く。 進路上にあるものはことごとく薙ぎ倒され、凄まじい破壊から逃げようと右往左往する人間たち。 ビルの外壁を突き破ると、魔神はゆりかごから人型に変形しつつ、オフィス街へ着陸…というよりは 墜落する。 路上にある車・街路樹・街灯が、前転姿勢でゴロゴロ転がる魔神に潰され、弾き飛ばされ、人々が パニックに陥って逃げ惑う。 魔神はそのまま突き当たりにあるアール・ヌーヴォー様式のオフィスビルに激突し、瓦礫が上から 降りかかって来た。 石材や金属材の破片を振り払いながら立ち上がると、メガトロンは右手あるなのはの身体を顔の前に 持って来る。 意識不明の重体に陥っているのは、生命反応を確認するまでもない。 「ふん、やはり儂の相手はあいつにしか務まらんか」 そう呟くと、興味を失ったメガトロンは、なのはを無造作に放り捨てた。「なのはーっ!!」 なのはの身体が路面に叩き付けられる寸前、駆け付けたヴィータが抱き留めた。 ヴィータ自身もスタースクリームにやられたダメージで身体のあちこちは傷だらけだっだが、それには 構わずなのはに必死になって呼び掛ける。 「なのは! おい、しっかりしろ!」 いくら呼び掛けても何の反応も返って来ない状態に、ヴィータの呼びかけが途絶える。 力なくもたれるなのはを呆然と見つめるヴィータの脳裏に、ある光景が浮かび上がっていた。 純白の雪を染める夥しい量の鮮血。 背後から胸を貫かれるという、命に関わる重傷を負いながらも、なおもヴィータを気遣うなのは。 だが、あの時はなのはにもヴィータの呼び掛けに応えられる程度の意識がまだあった。 今は意識不明で身体が何箇所も複雑骨折や粉砕骨折している事、そのどれもが致命傷になりかねない 重大なダメージである事が、こうして抱えているだけでも判る。 胸が微かに上下しているのが分からなければ、死んでいると思っても不思議ではない。 ヴィータの眼に、深く青い怒りの炎が浮かび上がった。 なのはの身体を優しく横たえると、ヴィータは立ち去ろうとするメガトロンに振り向く。 「てめぇ…待ちやがれ!」 ヴィータには眼もくれず、メガトロンは悠然と歩を進める。 「待てっつってんだろ!」 そう叫んで鉄球を一個撃ち込むと、ようやくメガトロンは止まって振り向いた。 「何か用か? 人間」 メガトロンは面倒臭そうに言うが、それが余計ヴィータの怒りを煽る。 「許さねぇぞ! よくも…よくもなのはを…!」 怒りに燃えてグラーフアイゼンを構えるヴィータを、メガトロンは無関心に見遣るだけだった。 「止めておけ、貴様では儂には勝てん」 「うるせぇ!」 「無駄死にしたくなくばその人間を連れて立ち去れ。今ならまだ助かるかも知れんぞ」 そう言って背を向けたメガトロンに、激昂したヴィータが跳び上がってアイゼンを振りかぶる。 メガトロンはそれを軽く避けると、右腕のチェーンメイスを出して逆にヴィータを殴り飛ばす。 直撃を受けたヴィータは墜落しかかるが、何とか体勢を立て直して落ちるのを防ぐ。 なおも怒りを燃やしてメガトロンを睨み付けるヴィータに、メガトロンは凍り付くような冷たい 視線を浴びせながら言った。 「来い、試してやる」 グラーフアイゼンにカートリッジが立て続けに装填されるとギガントフォルムへと変形し、ヴィータ の足元にベルカ式魔方陣が展開される。 次いでアイゼンの槌部分の前にドリルが、尾部にはジェットエンジンの噴射口が現れる、ヴィータ の切り札“ツェアシュテールングスハンマー”だ。 噴射口から炎が噴き出ると、ヴィータの身体は独楽のように回転を始めた。 ヴィータは高速回転で勢いを付けて再度メガトロンへアイゼンを振りかぶる。 メガトロンが右腕を上げて防ぐと、腕を突き破らんとドリルが高速回転を始めて盛大に火花を巻き上げる。 「ぶち抜けぇーっ!」 必死の形相で叫ぶヴィータとは逆に、メガトロンは辟易したように首を振ると左腕をヴィータに向ける。 すると腕の中から砲が現れ、ヴィータ目掛けて立て続けに砲弾が発射される。 なのはが受けたフュージョンカノン程の威力ではないが、強力な砲弾の直撃を何発も受けたヴィータ は吹き飛ばされ、なのはのすぐ横に叩き付けられた。 「ぐっ…!」 ヴィータはうめき声をあげながら起き上がると、手元のアイゼンに眼を向ける。 すると、まるでそれを合図としたかのように、グラーフアイゼンの槌の部分全体にひびが走り、粉々に 砕け散ってしまう。 「ア…アイゼン!?」 ヴィータはそう一言口にしたきり絶句する。 グラーフアイゼンがあまりにも呆気なく壊れた事が切っ掛けで、ヴィータの中で荒れ狂っていた激情の 波が静まって行く。 ヴィータは呆然とした表情で、アイゼンを握っていた手から、生死の境をさまようなのはへ眼を向ける。 結果的に自分のデバイスに無理を強いてしまった事、なのはの救護を後回しにしてしまった事…これら の事実を否応なく自覚させられる。 それらに対する自責の念、メガトロンに対する憎悪、様々な感情がヴィータの中でまぜこぜになり、 自然と涙が溢れ出した。 「この儂に刃向かう事の恐ろしさを思い知ったか。だが、もう遅いぞ!」 その声に顔を上げると、メガトロンが二人を蟻の如く踏み潰そうと足を上げるのが見える。 「この愚か者めが、思い知れ!!」 ヴィータが反射的になのはに覆いかぶさった次の瞬間、轟音と共に巻き上がった土埃が辺り一面を包んだ。 目を開けると、ヴィータはなのはと自分が未だに潰されていない事に驚く。 何故自分たちが生き永らえているのか、疑問に思いながら周囲を見渡すと、メガトロンとは 全く別の、青みがかった銀色に四本の指が付いた機械の足の間に自分たちが居る事に気づく。 反射的に見上げると、メガトロンよりやや小柄ながら、それでも巨大な人型機械がそびえ立っている。 一瞬、新手の敵かとヴィータは警戒したが、それなら自分たちをかばう形で立つはずがないし、 メガトロンを見上げる青い光の目には邪悪さが感じられないのが分かった。 スチールブルーの装甲に包まれた機械の巨人。 ヴィータにはそれが、はやてから聞いたギリシア神話に登場する、天空を支える神アトラスを連想させた。 “アトラス”は、しばらくメガトロンと相対した後、天から響く雷鳴の如き重く響く、しかし父のような深い 威厳に満ちた静かな声で言う。 「メガトロン」 それに大してメガトロンも相手の名を呼んで返した。 「“コンボイ”か」 前へ 目次へ
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都築編 ■いよいよ第二部のスタートです■ 4巻です!Record17の時点でトーマが無事スゥちゃん達のもとに帰還&第一部完、ということで、 Record18から第二部のスタートです。 トーマやリリィ、アイシス達は特務六課でなのはさんやスゥちゃん達との日々を過ごしていく事になって フッケバイン一同はカレンお姉ちゃんの目的に沿った「でっかいこと」をやるために頑張っていきます。 ここからしばらくは登場メンバー数人くらいの「短めエピソード」をちょっとずつやっていく事になるので シリアスばかりではなく、束の間の平穏や、主要キャラ達の明るい笑顔が見られるお話もお届けできるかなと。 という訳で、次回もよろしくお願いします!
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CCなのは クロス元:ファイナルファンタジーⅦ クライシスコア プロローグ TOPページへ このページの先頭へ
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CHARACTER PROFILE1 トーマ・アヴェニール(Thoma Avenir) 「エクリプス」を巡る運命に巻き込まれた少年 年齢-15歳 出身地-第3管理世界・ヴァイゼン 趣味-ひとり旅、遺跡での宝探し、キャンプ料理 Talk About Thoma 都筑真紀 トーマはちょうど、第1期なのはと似たような経緯で不思議な力と出会います。 それも含めて、緋賀先生に描いていただくなら男の子の方が絶対にいいと思い、いろいろとお話をさせていただきました。 緋賀ゆかり 初期のデザインはすごく幼かったです。2番目はいきなりかっこよくなりすぎたので、 そこを調整して現在のトーマになりました。2番目のトーマは、男性読者にはあまり好感をもたれなさそうなイケメンでした(笑)。 CHARACTER PROFILE2 リリィ・シュトロゼック(Lily Strosek) トーマとの出会いにより 運命をともにするヒロイン 年齢-?? 出身地-?? 趣味-まだない Talk About Lily 都筑真紀 リリィは設定が複雑な子ということもあって、緋賀先生には案をいくつも出していただいてしまいました。 最初に描いていただいたリリィも充分にかわいかったのですが、最終的にはこの子で決定になりました。 緋賀ゆかり リリィがいちばん難しかった!最初に描いた絵は記憶にないくらいです(笑)。 『なのは』は既存のキャラクターが多いので、その中で個性を出していくのは難しいことだなと、 ずっと考えていたような気がします。 CHARACTER PROFILE3 アイシス・イーグレット(Isis Egret) トーマとリリィをサポートする陽気な旅の同行者 年齢-15歳 出身地-第1世界・ミッドチルダ 北東部リガーテ 趣味-裁縫 厄介ごとに首を突っ込む Talk About Isis 都筑真紀 靴下に関して、緋賀先生から『絶対領域が不足している』というお話をいだたきまして。 それは確かにもっともだと思い、最終的にこんな形に。 緋賀ゆかり アイシスは最初、サブキャラだと思っていたのですが、 ダブルヒロインと聞いてからはデザインもだいぶ変わってきたところがありますね。 あと、おへそを出していいんだ!というのはちょっと意外でした(笑)。 CHARACTER PROFILE4 スティード(Steed) 感情表現豊かな(!?)トーマのよきパートナー スティードのアームは、伸縮・変形自在で、ペンダントのようにトーマの首にぶら下がったり、 手首に巻きついたりすることができる。 また、「手」として物を持つことも可能で、先端には補助ライトやストロボ機能も搭載している。
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「管理局が追ってくるー!」 なおも絶叫しながら、グレンは裏通りを爆走していた。 その勢いに、道端でうたたねしていた牙の生えた口だけの生物たちが警戒の唸り声を 上げて物陰に逃げ込み、進路上にいた通行人が突き倒されたり飛び退いたりする。 追跡していた三人の隊員のうち、身長121cm程の小さな人間型の魔導師がグレンを 引き倒そうとタックルをかけるが、グレンとの体格差は如何ともし難く、そのまま 引きずられていく。 “フー・マンチューの萬屋”と書かれた看板が下がる、精力増強をウリにした“ゾンビ の干し首”という人間型生物の頭の干物や“第256管理世界産、効果抜群の媚薬”と 書かれた青色のドロドロした薬の入った小瓶など、如何にも胡散臭い品々が陳列された 屋台のあるT字路で、グレンは見事な直角カーブを描いて右に曲がる。 飛び付いた魔導師は振り落とされて屋台に突っ込み、満州族の絢爛な衣装を着た、 ドジョウ髭に営業スマイルを貼り付ける胡散臭い店主とまともにぶつかる羽目となった。 必死に走るグレンと、それを追う魔導師二名の追跡劇は、裏通りから43区内を流れる 神田川程度の小川の上に架かる橋の上へと舞台が移る。 ここで振り切られたら見失う。背中が甲羅のように盛り上がった魔導師が、傍らで一緒に 走る、二本の角と背中に蝙蝠のような翼を生やした同僚に言う。 「ホールディングネットで止めろ!」 二人は足を止めると、橋を駆けるグレンの方にデバイスの狙いを定める。 グレンが山ほど荷物を積んだ荷車の横を駆け抜けようとした時、突然前方にゴール ネットの様な光り輝く網が表れた。 グレンが止まる間もなくその中に突っ込むと、光る網はゴムのように伸びてグレン を絡め取り、パチンコのように荷車の荷物の山の中へと放り出す。 荷物に埋もれたグレンを取り押さえようと、魔導師たちは荷車へと駆け寄った。 「な、何じゃお前ら!?」 顔を覆える程大きい耳と、白い肌にオカマメイクを思わせるアイシャドウが特徴の、 出っ歯な某有名芸能人を思わせる馬丁が、引っ張っていたサイと同じ大きさの生物 を放り出して荷車の所へ走って来る。 「こら、やめい! 荷物を目茶苦茶にすんな!」 暴れるグレンを取り押さえようと荷車上で悪戦苦闘する二人の所へ、馬丁が抗議 しながら飛び乗った時、高く積まれた荷物の山が崩れて荷車が馬もろとも横倒しと なり、その上に居たグレンたちは橋の上から道頓堀のように緑色に濁った汚い小川へと 転落してしまう。 欄干へと駆け寄った野次馬たちの目の前に、派手な水音と盛大な水しぶきが上がる。 魚類の体に人間みたいな足が付いた水中生物が腹を見せて浮かんでいる横で、グレンが 両手両足をバタつかせて叫ぶ。 「助けてくれ! 俺は泳げないんだ!!」 その後ろ横では、馬丁が水面に浮かぶ荷物を目の前に頭を抱えて歎いていた。 「何つうこっちゃ、荷物が総てパアや!」 1158管理外世界。 未だ火災の収まらないセギノール基地では、消火作業と遺体の収容作業が急ピッチ で行われ、ヘリやドロップシップが頻繁に出入りしている。 そこから南へ約25キロ、基地と真向かいの位置にある砂丘の窪地に、ヘリに偽装した ブラックアウトが鎮座していた。 自身が持つ優れた視覚装置で基地の状況をつぶさに観察していると、突然左隣りで 砂煙が上がった。 ブラックアウトは特に気にかけなかった。相手がメガザラックである事は、識別 信号で分かっていたからだ。 砂の中からよろよろと這い出て来たメガザラックは、フレンジーとサウンドウェーブ が使っていたのと同じノイズ信号で首尾を報告する。 報告を聞き終えたブラックアウトから、突然大出力の信号がメガザラックに浴び せられ、センサー類が危うく吹き飛びそうになる。 例えるなら、ヘマをやった部下に短気な上司が“この役立たずが!!”と怒鳴り 付ける感じだろうか。 怒声を浴びて畏縮するメガザラックを尻目に、ブラックアウトは機体後部の ドアを開く。 メガザラックがすごすごと乗り込んだのを確認すると、最初の攻撃時に得たデータ からデッチ上げた偽の識別信号を発信しながら、ブラックアウトは離陸した。 「なのはちゃん、もう起きて大丈夫よ」 制服の上に白衣を着込んだ、金髪に白い肌の三十代前半に見える女性医務官が、 心電図や人体の断面図が表示された空間モニターを操作しながら、Yシャツと スカートでベッドの上に横たわるなのはに言った。 「どうですか、シャマル先生?」 陸上部局医務官のシャマル一等陸尉は、モニター上の数値をチェックしながら 難しい表情で言う。 「芳しくないわね。JS事件でのダメージが慢性化しているし、リンカーコアの 回復率は依然として1%を切ってる」 シャマルはそこで言葉を切ると、モニターからベッドの端に座って靴を取ろう としているなのはに目を向けた 「一度、治療プログラムを見直す必要があるかも知れないわね…」 なのはは靴を履き終えると、上着が架けてある壁際のコートハンガーへと歩く。 「シャマル先生、体の痛みは段々良くなって来てます」 そこで一旦言葉を切り、上着を手に取って着始めてから、なのはは話を再び始める。 「…確実に効果は出てますから、自信を持っていいと思いますよ。 見直すにしても、その方が良い方法を見つけられると思いますし…」 微笑みながら言うなのはに、シャマルは表情を和らげた。 「ありがとう、なのはちゃん」 シャマルはモニターを切ると、苦笑して肩を竦める。 「どうしたんですか?」 「担当医が患者に励まされるなんて…、私もまだまだだな…って思ったの」 「私も一緒ですよ、これからもよろしくお願いします」 なのははそう言って、シャマルに頭を下げた。 前へ 目次へ 次へ